研究推進

「福祉コミュニティ」における公私協働のあり方を理解する

鈴木美貴

プロフィール

社会福祉学部 社会福祉学科 特任講師:鈴木 美貴  Miki Suzuki

人々が抱える問題が複雑化している現在、多様な主体が協働して問題を解決する「地域共生社会」が目指されています。その意義は誰もが共有できるものですが、そう簡単に実現できるものでしょうか。地域社会において住民が果たす役割、そして住民と行政の協働のあり方の具体的な姿を明らかにしたいと考えています。

目的・内容
「福祉コミュニティ」における公私協働はいかにして可能になるのか

1970年代以降、地域福祉の領域では住民主体の重要性が、さらには問題を抱えた人を支えるために公私協働で解決を目指す「福祉コミュニティ」の重要性が叫ばれてきています。しかしこれまで住民に期待されてきた役割は、公的サービスの不足を補う担い手が主流でした。現在、住民を含む公私の主体が協力する地域共生社会等が構想され、その実現を目指した研究が蓄積されています。しかし多くは公私協働の必要性をといたもの、あるいは福祉関心を高めるイベントの開催や、サービス供給を住民が担って公的機関が資金面で支える、といった意味での公私協働に焦点をあてる研究が多い傾向がありました。これらの流れが重要であることは言うまでもありませんが、さらに一歩進んで、現に困難を抱えた人について共に知恵を出し合い解決策を模索するような「福祉コミュニティ」に基づく公私協働のしくみが求められています。このような現状において、私は住民主体の公私協働のあり方を明らかにするために色々な取り組みを調べています。

展望・成果
公私協働は理想論だけでは実現しない 具体的なプロセス・内容の提示が必要

住民主体の公私協働はこれまで理想論として語られる面がありました。しかし望ましい姿を展望するためには、実際の場面で、どのようなプロセスを経て公私協働が実現しうるのか、そして、活動を担うリーダーがどのようにあらわれ、いかなる理念を内面化しているのか、さらには公的アクターがどのように協力関係にコミットしていくのかを知る必要があります。なぜなら公私のアクターは、それぞれ異なる行動原理を有しているからです。
草の根で展開されつつある住民主体の公私協働の事例をいくつか観察してみると、理念の共有だけでは体制の構築は難しいということがわかってきました。たとえば、ある地域では、住民アクターが地域の問題を発見する取り組みを広範囲に展開していました。そしてその圏域の行政アクターが、住民アクターの問題発見能力を高く評価することによって公私協働の体制が約20年継続されていることがわかりました。このことは、“住民アクターが「相談する立場」・公的アクターが「相談される立場」”という固定的な構図を取り払い、公私のアクターが協力しあう関係につながることを意味します。また別の地域では、公的事業の受託をきっかけに住民主体の体制を実現しているところもありました。

研究が生み出した成果・効果による社会への応用や実装の可能性など

住民主体の公私協働のあり方を探ることは地域共生社会の実現可能性を理解することにつながります。もちろん住民主体は、その言葉が示すように誰かが促すものではありません。しかし一方で、具体論が無ければ実現できないことも事実です。本研究の成果によって、住民主体の公私協働の実現のための選択肢が示されることが期待されます。

キーワード

#地域共生社会、#地域福祉、#公私協働、#住民主体、#地域包括ケア、#福祉コミュニティ、#NPO、#ボランティア、#行政、#住民

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