研究シーズResearch Profiles
アメリカン・ルネッサンス期の先住民作家William Apessとその文学
プロフィール
経済学部 経済学科 教授(英語・アメリカ文化担当):小沢 奈美恵 Namie Ozawa
19世紀のアメリカン・ルネッサンスと呼ばれる文芸復興期の文学研究と、アメリカ映画に映し出される現代社会を分析するカルチュラル・スタディーズを行っています。趣味は、旅行、映画・音楽鑑賞など。特にアメリカ文学・文化に関連した地域を旅するのが好きです。
アメリカン・ルネッサンス期(19世紀初頭から中葉のアメリカ合衆国成立直後のアメリカの文芸復興期)における主流作家(メルヴィル、ホーソン、エマソン、ソロー、ポーなど)と先住民作家ウィリアム・エイプスの比較研究
ウィリアム・エイプスは、19世紀に生きたピークォット族の作家兼牧師です。彼は、武力を使わず、言論で、自分たち先住民諸部族の自由と平等を勝ち取ろうとしました。
- 目的
- 先住民の視点から見たアメリカン・ルネッサンス期文学研究
アメリカン・ルネッサンス文学の研究は、主として白人作家を中心に行われてきましたが、本研究は、先住民の視点を入れて文学研究に新しい光を当てる試みです。ウィリアム・エイプスという先住民作家を取り上げ、その時代の先住民の社会的地位、先住民表象、主流作家との関連などを研究し、同時に、二つの著作を翻訳して紹介します。
- 内容
- エイプスの作品研究及び、同時代のアメリカン・ルネッサンス期の主流作家との比較
ウィリアム・エイプスの作品研究を行い、白人主流作家の先住民への発言や先住民像と比較しました。処女作である自伝は、正式なキリスト教徒として承認されるために行う回心体験物語という体裁を取りながら、東部に生きる先住民の困窮した生活を伝えています。エイプスは、当時、下層階級、女性、有色人種の間に急速に広まっていたメソディスト派教会に属し、人種差別と闘いながら正式な牧師としての地位を手に入れました。ニューイングランド近辺を説教して回り、先住民の意識を高めると同時に白人にも訴えかけました。また、エイプスが中心的役割を演じたマシュピー族の自治権を求める運動の記録作品では、奴隷制廃止運動家やジャーナリストと共闘しながら世論を動かし、正当性を訴えています。晩年の作品は、ボストンの劇場での講演を基にしたもので、植民地連合軍と先住民連合軍の戦いであるフィリップ王戦争(1675-76)を、フィリップ王メタカムという先住民側の立場から語り直し、白人聴衆に向かって先住民の立場に理解を求めました。
こうしたエイプスの作品と生き方を、アメリカン・ルネッサンスを代表するエマソン、ソロー、ポーの作品と比較して、この時期におけるエイプスの文学の重要性を訴えました。
- 展望・成果
- 先住民の視点を入れた19世紀米文学の新解釈と、先住民と奴隷制廃止運動との共闘関係
研究成果を『アメリカン・ルネッサンス期の先住民作家ウィリアム・エイプス研究―甦るピークォット族の声』(明石書店、2021年)にまとめました。白人中心のアメリカン・ルネッサンス文学内に征服された先住民の声を甦らせることで、新たな視点から文学の解釈が可能になりました。また、当時、先住民の運動家は、アメリカという共和制国家建国の理念である自由と平等に基づいて、キリスト教の信仰復興運動や奴隷制廃止運動に関わる白人、黒人、混血の有色人種など多様な人々とともに共闘していたことが明らかになり、今後の研究の展望につながりました。こうした活動は、現代の多民族国家アメリカのルーツであり、BLM運動などのはしりだったと言えるでしょう。
- キーワード
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#ウィリアム・エイプス、#アメリカン・ルネッサンス、#アメリカ先住民、#ピークォット族、#フィリップ王戦争、#インディアン強制移住法、#マシュピー族自治権獲得運動、#大覚醒運動、#回心体験物語、#メソディスト派、#奴隷制廃止運動
- 研究者からのメッセージ
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文学研究で特定の地域の文学を深く掘り下げて、その地域の人々を理解することは、文化・経済の交流にも役立つはずです。また、文学に新しい解釈を加えていくことは、新しい思想を生み出すことでもあり、間接的に世の中を変える力を持っていると思います。例えば、社会の仕組みの中にジェンダー・人種などの少数派や障害者を入れた新しい社会の実現は、多様性に価値を認める思想によって、推し進められるでしょう。