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GDP統計の精度向上に向けた研究
プロフィール
経済学部 経済学科 教授:宮川 幸三 Kozo Miyagawa
私の専門は、経済統計といわれる分野です。私が経済統計に興味を持ったのは、自分自身の苦い経験がきっかけです。ある経済データを用いて分析を行ったのですが、後になってそのデータ自体に誤りがあったことが判明したのです。それ以来、おかしなデータを世の中から一掃することを目指して、経済統計の作成手法について研究しています。
- 目的・内容
- SUT作成のための基礎統計や分類体系などの基盤整備
国や地域の経済規模を表す「国内総生産」(GDP)は、経済成長率の計算や各国経済規模の比較を行う際に用いられる重要な指標ですが、作成方法は大変複雑です。これまで日本のGDPは、5年に一度作成される「産業連関表」に基づいて推計されてきました。しかし政府は、「産業連関表」ではなく「供給・使用表」(SUT)に基づいてGDPを推計する体系への移行を進めています。これはGDPの精度向上を目的としたものであり、2017年から2029年にかけて10年以上にわたる大規模な統計改革プロジェクトです。実際にSUTを作成するためには、基礎データとなる統計調査の改善とともに、生産物分類や産業分類といった分類体系などの整備も必要となります。本研究は、より精度の高いSUTを作成するために、統計調査や分類体系のあり方、それらに基づくSUTの推計手法等について研究するものです。
- 展望・成果
- 商業部門の精度改善、産業・生産物分類の策定、デジタルSUT
研究成果の1つは、卸売や小売といった商業活動に関する統計精度向上です。商業部門は国内で最も大きな産業部門でありながら、売上額から仕入れ額を差し引いたものが生産額になるという特殊な性質により、精度の高いデータを作成することが困難でした。本研究では、商業部門のデータ推計手法を詳細に分析することにより、従来の産業連関表では、商業部門が生み出すGDPが過少に推計されている可能性があることを指摘しました。その後、産業連関表における商業部門の推計精度は大きく改善しています。
また、日本の生産物分類や産業分類のあり方について提言したことも、本研究の成果の1つです。実は日本にはこれまで生産物分類が存在しませんでしたが、2024年3月に初めての生産物分類が公表されました。また2023年7月には、これまでとは分類基準が異なる新しい日本標準産業分類(第14回改定)が公表されました。私は、この新しい生産物分類の内容について検討する「生産物分類策定研究会」(総務省)の座長として、また産業分類の改定について検討する「産業分類改定研究会」(総務省)の構成員として分類体系の策定および改定に携わりました。そのため日本の生産物分類や産業分類の一部には、本研究の成果が活かされています。
このほかに現在では、デジタル経済の規模を把握するためのデジタルSUTをどのように推計すべきか、といった問題にも取り組んでいます。
- キーワード
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#経済統計、#国民経済計算、#GDP、#産業連関表、#供給・使用表(SUT)